概要
iPhone/iPadはUSB経由で充電を行いますが,標準的なUSB2.0規格であれば500[mA]しか流すことができません.
iPhone/iPadに対応した充電器は,USBのデータ通信線D+とD-に規定の電圧を流すことで,より多くの電流に対応していることをiPhone/iPadに伝えます.
今回,D+とD-を複数の組み合わせで試し,iPadを高速に充電するためにはD+を2.7[V],D-を2.7または2.0[V]とすべきであると結論づけました.
なお,iPhoneは機種ごとに最大給電電力が異なるため,12Wフルで活用されることはありません.
はじめに
スマートフォンやタブレットはUSB経由で充電します.
しかしながら,充電器で一般的なUSB 2.0端子は500[mA]しか流せません.
iPhoneやiPadは,より高速な充電のためにD+,D-の電圧がある特定の値のとき,より多くの電流を受けるようになっています.
Apple公式のドキュメントというのは公開されていないようなので,ネットで情報を集めた感じ次のような電圧のようです.
D+の電圧 | D-の電圧 | 設定最大電流[A](おそらく) |
---|---|---|
2.0 | 2.0 | 0.5 |
2.0 | 2.7 | 1.0 |
2.7 | 2.0 | 2.1 |
??? | ??? | ??? |
らしいです.というわけで,ちょっと実験してみました.
実験1
実験方法
通常の充電器の性質を知るために,iPadを高速に充電できる,充電器について,D+,D-の電圧,iPad充電時の電流を調べました.
なお,D+,D-の電圧はiPad未接続時
実験環境
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
端末 | iPad Pro 2017 10.5 | バッテリー残量は10〜20% |
配線 | Apple 純正 ライトニングケーブル(1m) | |
電源 | ALINCO DM-330MV | 5Vに設定 |
テスタ | METEX M-6000H |
実験結果
電圧
データ線 | iPad未接続時の電圧[V] | iPad接続時の電圧[V] |
---|---|---|
D+ | 2.678 | 3.245 |
D- | 2.675 | 0.029 |
電流
1.60[A]
考察
iPad 未接続時の電圧はD+,D-共に約2.7[V]でした.
これは事前に調べた,どの組み合わせにもあてはまりません.
このパターンも含めて回路を自作して試すことにします.
実験2
実験方法
以下の回路図に示すような回路を用意し,それぞれの端子にiPadを接続したときの電流値を測定しました.
4つのUSB端子について,D+とD-の電圧を4パターン試してみました.
上記記事の3つに加えて,D+,D-ともに2.7[V]となる組み合わせも試しました.
左から順に1.0[A],2.1[A],???[A],0.5[A]となるように設定しました(上記の記事が正しければ).
実験環境
項目 | 内容 | 備考 |
---|---|---|
端末 | iPad Pro 2017 10.5 | バッテリー残量は10〜20% |
配線 | Apple 純正 ライトニングケーブル(1m) | |
電源 | ALINCO DM-330MV | 5Vに設定 |
テスタ | METEX M-6000H |
基板の事前測定
電源電圧 5.091[V]時
設定最大電流 | D+ 目標電圧 | D+測定電圧 | D- 目標電圧 | D-測定電圧 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 2.0 | 2.042 | 2.0 | 2.044 | ||
1.0 | 2.0 | 2.028 | 2.7 | 2.726 | ||
2.1 | 2.7 | 2.723 | 2.0 | 2.023 | ||
2.4 | 2.7 | 2.724 | 2.7 | 2.723 |
実験結果
左:1.0[A],右:2.1[A]
左:???[A],右:0.5[A]
D+の電圧 | D-の電圧 | 設定最大電流[A](おそらく) | 実測電流[A] |
---|---|---|---|
2.0 | 2.0 | 0.5 | 0.47 |
2.0 | 2.7 | 1.0 | 0.95 |
2.7 | 2.0 | 2.1 | 1.46 |
2.7 | 2.7 | ??? | 1.54 |
設定最大電流の小さい2つ(0.5[A],1.0[A])は実測電流がそれよりわずかに下回る値を測定しました.
0.5[A]のときは,iPadのステータスバーに「充電していません」と表示されました.
設定最大電流2.1[A]のとき,実測電流は1.46[A]と,大きく下回りました.
設定最大電流のわからない組み合わせのとき,実測電流は1.54[A]と設定されました.
考察とまとめ
一番大きな電流が流れたのは,D+,D-共に2.7[V]の1.54[A]でした.実験1の結果と,以上の結果を踏まえるに,設定最大電流は
D+の電圧 | D-の電圧 | 設定最大電流[A] |
---|---|---|
2.0 | 2.0 | 0.5 |
2.0 | 2.7 | 1.0 |
2.7 | 2.0 | 2.1 |
2.7 | 2.7 | 2.4? |
と埋められるべきではないでしょうか.
一方で,電流は最大でも1.6[A]以下しか流れませんでした.
バッテリは残量10〜20%になるまで減らしてあるので,てっきり2.4[A]ギリギリまで流れる組み合わせがあると思っていたのですが,実際には異なりました.
iPadの充電電流についてもっと調べる必要がありそうです.
とりあえず,iPadを高速充電するにはD+を2.7[V],D-を2.7または2.0[V]とすべきであるとは言えそうです.
現状,最良の選択肢は,D+,D-共に2.7[V]となる組み合わせです.
データ線 | ハイサイド抵抗[Ω] | ローサイド抵抗[Ω] |
---|---|---|
D+ | 39k | 47k |
D- | 39k | 47k |